皆さんは「自動運転」と聞いて何を想像しますか?多くの方は「乗っているだけで目的地に連れて行ってくれる」といったところでしょうか。しかし、自動運転には段階によって「レベル」が存在します。現在の技術では「自動支援車」に留まり、真の「自動運転車」にはまだまだ時間がかかりそうです。
トラック運送業界でも人手不足解消やドライバーの負担軽減に有効であると期待されており、実用化に向けて研究が進んでいます。海外でも注目されており、アメリカでは日本に先駆けて一部商業運用も開始されています。今後実用化されれば「トラックドライバーは必要ないのでは?」と思われがちですが、完全な実用化にはまだ相当な時間がかかりますし、完全自動は難しく、トラックドライバーは依然として需要が高く将来も安定した職業といえます。
自動運転は米国自動車技術者協会(SAE)が「自動運転化レベル」としてレベル0~レベル5までの6段階に区分しています。レベル0は支援が何もない状態での運転となり、逆にレベル5は制限なく全ての運転操作が自動化されます。現在日本で販売されている乗用車はレベル2までとなっていますが、まもなくレベル3の乗用車が実用化されようとしています。
画像:国土交通省資料「自動運転を巡る動き」より
自動運転の有望な分野の一つが物流であり、その物流の中心を担っているトラック運送業界は工場や敷地内、高速道路など走行ルートを限定しやすいこともあり、深刻なドライバー不足を解消できる有効な手段として注目が集まっています。
日本は勿論、海外でも開発競争が進んでおり、トラックの場合は、先頭車両に続いて、先進の安全技術と高度な通信技術を搭載した複数台のトラックが自動で安全に車間距離や車線を維持しながら走行する「隊列走行」の研究が進んでおり、自動運転によるトラックの隊列走行については3つのステップが考えられています。
画像:国土交通省道路局「第2回自動運転に対応した道路空間に関する検討会」資料
いきなり全車両を自動運転化することは、技術の進捗や法律の整備などの問題で時間がかかってしまいます。そのため、3つのステップに分けて安全を確保し、ドライバーへの負担を軽くしたうえで段階的に進めています。
ドライバーの労働環境改善の救世主として期待されているのはもちろん、環境面にも大いに貢献すると言われています。
大きいトラックの事故は重大事故につながる可能性が高く、輸送の安全確保が最重要課題となっていますが、最先端のシステムが運転をサポートし、運転ミスを防ぎます。更に労働時間の改善やドライバー不足の解消、安定した走行によって輸送品質の向上が見込まれます。
トラックを無人化することで一台当たりの稼働時間を伸ばすことができる他、安定した走行が可能となって運行時間が正確になるため、全体の管理計画が立てやすくなることから、燃費の向上や配達の効率化が期待できます。
営業用トラックの大半はディーゼル車で、排気ガスによるCO2(二酸化炭素)などの排出が環境に悪影響を及ぼすことが一時期大きく取り上げられていました。
自動運転の導入で従来に比べて燃費の良い走行が可能となり、CO2削減につながります。
便利である反面、実用化にはまだまだ時間がかかりそうです。
国土交通省ではトラック隊列走行実現のため、公道での実証実験を行ってきましたが、実験で得られた課題として主に以下の項目を挙げています。
交通量が多い場合、隊列形成に時間がかかり、高速道路のインターチェンジやサービスエリア・パーキングエリア及び車線減少時に一般車両が隊列車間に留まる頻度が多かったため、隊列走行専用・優先レーンの設置が必要です。
サービスエリア・パーキングエリア内のトラック駐車場が満車状態で駐車できない状況があったため、連結、解除及び休憩、退避のための隊列走行専用エリアの設置が必要です。
道路では悪天候や車線規制、渋滞など様々な状況に直面します。時にはそういった状況が隊列走行の妨げになる場合もあります。例えば、車線を維持して走行するため白線を認識するシステムがありますが、実証実験では白線が薄い場所ではシステムがうまく機能せず、車線を維持して走行できなくなってしまうことがありました。その場合は白線の維持補修が必要です。
トラックの隊列走行が実現すれば実質ドライバー1人で複数の車両を動かすことになるため、先頭を走る運転者の責任範囲はもちろん、運転手のいない後続車両で事故などのトラブルが起きた場合も考えてトラックの持ち主の責任を明確にする必要があります。
2017年、政府の「人工知能技術戦略会議」は2030年までに、先に挙げたトラックの自動運転などを活用して、物流を完全無人化する計画を示しました。これを受けて各分野で研究・実用化を目指していますが、ここではその一例を紹介しましょう。
宅配は、受取人が家に不在であった場合は再配達が必要であるため、配達人の⾧時間労働が問題となっています。
その問題を解決するための取り組みとして、「宅配の自動化」があります。利用者がスマートフォンで場所と日時を指定しておくと、ロボットによる自動運転車が荷物をその場所まで届けてくれるサービスや、宅配ロボットが敷地内を移動し、コンビニの仮店舗から指定の位置まで、弁当やペットボトルの飲み物などを届ける無人配送サービスの実験が行なわれています。
今は新型コロナウィルスの蔓延により、スーパーマーケットなどの混雑が問題になっているので、これらの実験はその解消手段としても注目を集めています。ただ、利用者が指定の場所まで荷物を取りに行く労力を必要としていることが共通の課題といえます。
物流を支える上で、運送や配送のみならず、倉庫内の商品の取り出し(以下、「ピッキング」といいます)や搬送といった作業は欠かせません。
従来は商品の注文があったら、作業員は倉庫内の商品が置いてある棚まで行ってピッキングをしたのち、商品を台車やカートに乗せて作業エリアまで搬送していました。
しかし、これでは作業員は商品を探すため、倉庫内を駆けずり回らなければならないので、大きな負担となっていました。そこで作業の効率化を目指すため、これまで人の手で行っていた作業をロボットに代替させる動きがでてきたのです。例えば、大手ネットショッピング会社の一部物流センターではロボットが商品を搬送し、それから人がピッキングを行っています。
ロボットが作業員のいるところまで商品棚を運んできてくれますので作業員はその場を動かずピッキングすることができるというわけです。